介護事業所の記録・事務業務における生成AI活用方法

介護事業所で生成AIを活用するなら、介護判断そのものをAIへ任せるのではなく、介護記録の文章整理、申し送り、会議記録、事務文書など、人が内容を確認できる業務から始める方法が現実的です。

介護現場では、利用者への直接的な支援だけでなく、日々の記録、申し送り、会議、家族への連絡、研修資料、業務マニュアルなど、多くの文章作成や情報整理が発生します。一方で、利用者に関する情報を扱うため、何を生成AIへ入力できるのか、どこまでAIへ任せるのかを事業所として決める必要があります。

この記事では、介護事業所で生成AIを使いやすい記録・事務業務、AIへ任せない業務、情報管理の考え方、導入手順、業務で使えるテンプレートまで具体的に解説します。

この記事のポイント

  • 生成AIは介護記録の文章整理、申し送り、会議記録などから活用しやすい
  • 利用者の状態やケア方針など専門的な判断をAIへ任せない
  • 利用者を特定できる情報を安易に生成AIへ入力しないルールが重要
  • AIが作成した文章は原記録と照合し、職員が最終確認する
  • 最初から全業務へ広げず、一つの定型業務から試して改善する
介護スタッフが現場メモとパソコンを確認しながら介護記録の文章を整理している様子
生成AIは介護判断ではなく、介護記録の文章整理や事務文書の下書きなどから活用しやすい

介護事業所で生成AIを活用しやすい理由

介護事業所には、利用者への直接的な支援とは別に、多くの記録作成や情報整理業務があります。生成AIは、こうした文章中心の業務で下書きや整理を補助する用途と相性があります。

介護現場には繰り返し発生する記録業務が多い

介護記録では、食事、排泄、移動、利用者の様子、本人の発言、職員が行った対応などを継続的に記録します。現場で内容を把握できていても、他の職員が理解できる文章へ整える部分に負担がかかることがあります。

こうした業務では、生成AIに事実そのものを考えさせるのではなく、職員が記録した内容だけを使って文章を整える役割を持たせる方法が適しています。

事務業務にも文章整理が必要な場面が多い

介護事業所では、申し送り、会議記録、家族向け案内、職員向けのお知らせ、研修資料、業務マニュアルなども継続的に作成します。

元になる情報が決まっており、それを短くする、分類する、読みやすくする、一定の形式へ整える作業は、生成AIへ役割を限定しやすい業務です。

生成AIを導入する目的をAIを使うこと自体にせず、記録作成に時間がかかっている、申し送りの形式が職員ごとに異なる、毎回似た事務文書を作っているなど、具体的な業務課題から対象を選ぶことが重要です。

生成AIを使いやすい業務と任せない業務

介護事業所では、文章整理としてAIを使える業務と、利用者への支援や専門的判断として人が担当すべき業務を分けることが重要です。AIが回答できることと、事業所としてAIへ任せてよいことは同じではありません。

介護事業所における生成AI活用の判断例
業務 AIの使い方 活用しやすさ 人が確認するポイント
介護記録 現場メモを読みやすい文章へ整理 条件付き 日時、利用者の状態、対応内容、事実関係
申し送り 複数の情報から引き継ぎ事項を整理 高い 重要事項の抜け、最新情報との一致
会議記録 議事メモから決定事項や対応事項を整理 高い 決定内容、担当者、期限
家族向け案内 元情報を分かりやすい文章へ変換 条件付き 事実、表現、個別事情への配慮
研修資料 既存資料から要点や確認問題の案を整理 高い 制度や手順との一致、最新性
利用者の状態判断 AIへ最終判断を任せない 対象外 職員や専門職による判断
ケア方針の決定 AIへ最終判断を任せない 対象外 利用者の状態や希望を踏まえた専門判断

始めやすいのは文章整理で完結する業務

初期導入では、会議メモの整理、職員向け案内文、業務マニュアルの整理など、利用者個人の情報を必要としない業務が候補になります。

既存の正しい情報を短くする、箇条書きへ変える、決められた項目へ分類するといった処理であれば、AIの役割を限定しやすくなります。

介護判断と文章整理を混ぜない

利用者の状態から原因を判断する、支援方法を決める、事故や緊急時の対応を判断するといった内容は、文章整理とは異なります。

AIが自然な文章を生成しても、それが現場の状況に合った判断とは限りません。利用者への対応方針や専門的な判断は、職員や必要な専門職が担当します。

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介護記録に生成AIを使う具体的な方法

介護記録で生成AIを使用する場合は、AIに記録内容を考えさせるのではなく、職員が確認した事実を文章へ整える補助として利用することが重要です。

現場メモを読みやすい文章へ整理する

職員が現場で記録した日時、利用者の様子、本人の発言、職員が行った対応、その後の状態などを元に、読みやすい記録文へ整える使い方があります。

AIへ入力する情報の項目を統一しておけば、職員ごとに文章構成が大きく異なることを抑えやすくなります。

申し送り内容を項目別に整理する

申し送りでは、複数の記録から次の勤務者が確認すべき事項を整理する必要があります。生成AIを使って、変化、注意事項、対応中の内容、次に確認する事項などへ分類する方法が考えられます。

ただし、AIによる要約だけを正式な申し送り情報として扱うのではなく、重要な内容については元の記録へ戻って確認できる状態を残します。

会議記録を決定事項ごとに整理する

サービス担当者会議や事業所内会議などのメモを、議題、決定事項、保留事項、担当者、次回対応といった項目へ整理する用途にも生成AIを活用できます。

会議で決定していない内容をAIが補わないよう、入力された内容だけを使用するという条件を設定します。

介護記録を整理するときのプロンプト例

以下は介護現場で記録したメモです。
記載されている事実だけを使用し、介護記録として確認しやすい文章案へ整理してください。

条件
・入力されていない事実を追加しない
・利用者の状態の原因を推測しない
・診断や専門的な判断を追加しない
・不明な情報を補完しない
・日時、利用者の様子、本人の発言、職員の対応を区別する
・簡潔で客観的な文章にする
・最後に職員が原記録と照合すべき項目を箇条書きにする

元情報
ここに事業所のルールに沿って確認済みの情報を入力する

生成AIは、入力されていない内容を補ったり、事実関係を誤って整理したりする可能性があります。日時、利用者の状態、本人の発言、実施した対応などを原記録と照合し、職員が確認してから正式な記録として扱ってください。

利用者情報を守るために決めるルール

介護事業所における生成AI活用では、何を入力してよいかを職員個人の判断へ任せないことが重要です。利用者に関する情報を扱う場合は、使用するAIサービスのデータ取扱条件と事業所の情報管理方針を確認したうえで利用範囲を決めます。

入力禁止情報を具体的に決める

利用者名や連絡先などを含む記録を、職員が個人で利用している生成AIサービスへそのまま貼り付ける運用は避けます。

どのサービスを業務で利用してよいか、どの情報まで入力できるか、アカウントをどう管理するかを事業所として決めます。

生成AIへ入力する前の確認チェックリスト

  • 利用者の氏名が含まれていないか
  • 住所や電話番号など連絡先が含まれていないか
  • 利用者番号など識別につながる情報が含まれていないか
  • 健康状態や生活状況など慎重に扱う情報が含まれていないか
  • 使用しているAIサービスを事業所として利用してよいか確認しているか
  • 入力データの保存や利用条件を確認しているか
  • AIの出力結果を誰が確認するか決めているか

氏名だけを削除すればよいとは限らない

利用者名を利用者Aなどへ変更しても、年齢、家族構成、具体的な出来事、利用日時などの情報を組み合わせることで対象者を推測できる場合があります。

最初は実際の利用者情報を使わず、架空のサンプルや事業所共通の情報でプロンプトや業務フローを作成する方法もあります。

入力だけでなくAIの出力も確認する

個人情報の入力ルールを決めても、AIが誤った内容を生成する問題は残ります。入力された情報だけを使う、不明なことを推測しないといった条件を設定し、人による確認を必ず残します。

介護事業所で生成AIを導入する手順

生成AIを定着させるためには、ツールを導入して職員へ自由に使ってもらうより、対象業務、入力情報、確認方法を一つずつ決める進め方が適しています。

  1. 対象業務を一つ選ぶ毎日または毎週繰り返しており、文章作成や情報整理に負担がかかっている業務から選びます。最初は人が内容を確認しやすい業務が適しています。
  2. 現在の業務方法を整理する誰が何を記録し、どの情報を元に文章を作り、誰が確認しているのかを整理します。現在の業務が曖昧なままAIを導入すると、AIの使い方も曖昧になりやすくなります。
  3. 入力禁止情報を決める利用者の氏名や連絡先など、生成AIへ入力してはいけない情報を具体的に一覧化します。
  4. 共通プロンプトを作る職員が毎回自由に質問するのではなく、入力項目、禁止事項、出力形式、確認項目を一つのテンプレートへまとめます。
  5. 少人数で試す一部の職員で運用し、事実と異なる出力、入力しにくい項目、修正が多い表現などを記録します。
  6. 確認ルールを固定する原記録と照合する項目を決め、安定して利用できる状態になってから同じ業務を担当する職員へ展開します。

モデルケース:日々の介護記録から始める

仮定した例として、職員がサービス提供後に箇条書きのメモを残し、勤務終了前に文章へ書き直している介護事業所を考えます。

まず日時、観察した事実、本人の発言、職員が行った対応、その後の様子を共通項目として整理します。生成AIにはその情報だけを使って文章の下書きを作らせ、職員が原メモと照合した後に正式な記録へ反映します。

生成AIで整理した介護記録案をスタッフ同士で原記録と照合して確認している様子
AIで整理した介護記録案は、元の情報と照合し、職員が内容を確認してから正式な記録へ反映する

AIを利用した回数だけではなく、どの項目で修正が多いか、入力に迷う部分はどこか、確認しにくい内容は何か、職員によって使い方が変わっていないかを確認します。使いにくい場合はプロンプトだけでなく、元になる入力形式も見直します。

よくある失敗例と対策

介護事業所での生成AI活用では、AIの性能そのものより、対象業務や入力ルール、確認方法が曖昧なことが問題につながりやすくなります。導入前に想定しやすい失敗を整理しておきましょう。

失敗例1 職員が自由に利用者情報を入力する

何を入力してよいか決まっていないと、利用者名や記録内容をそのまま生成AIへ貼り付ける可能性があります。利用できるAI環境と入力禁止情報を事業所として決めます。

失敗例2 AIの記録案をそのまま確定する

文章が自然でも、入力内容の取り違えや事実と異なる表現が含まれる可能性があります。正式な記録へ反映する前に原記録との照合を行います。

失敗例3 職員ごとに異なる指示で使う

職員によって入力項目や指示が違うと、AIの出力品質も安定しにくくなります。業務ごとの共通プロンプトと確認チェックリストを用意します。

失敗例4 最初からすべての業務へ展開する

複数の業務へ同時に導入すると、問題が発生した場合に原因を確認しにくくなります。一つの業務で運用方法を整えてから対象を広げます。

便利だから使うではなく、AIの役割を限定する

生成AIは幅広い質問へ回答できるため、利用を始めると対象業務を広げたくなる場合があります。しかし、AIができることと、介護事業所として任せてよいことは異なります。

文章の下書き、要約、分類、形式変換など役割を限定し、利用者への対応や専門的な判断は人が担う形にすることで、運用範囲を明確にできます。

よくある質問

介護事業所で生成AIを導入するときに出やすい疑問を整理します。実際の利用可否は、使用するサービスや事業所の情報管理ルールを踏まえて判断してください。

介護事業所ではどの業務から生成AIを使うとよいですか?

会議メモの整理、職員向け案内、業務マニュアル、研修資料など、利用者個人の情報を必要とせず、人が内容を確認しやすい文章業務から始める方法があります。運用に慣れてから、記録業務への活用範囲を検討します。

介護記録をすべて生成AIに作らせてもよいですか?

AIだけで記録を完成させる運用は避けるべきです。現場で確認した事実は職員が入力し、AIは文章整理の補助として利用します。出力された文章は元の情報と照合し、職員が最終確認します。

利用者の氏名を削除すればAIへ入力してもよいですか?

氏名を削除するだけで十分とは限りません。年齢、家族構成、利用日時、具体的な出来事などの組み合わせから対象者を推測できる場合があります。使用するAIサービスと事業所のルールを確認して入力範囲を決めてください。

生成AIに申し送り内容をまとめてもらえますか?

入力された記録から注意事項や引き継ぎ事項の候補を整理する使い方は考えられます。ただし、重要な内容が抜ける可能性があるため、AIの要約だけで申し送りを完了させず、元の記録も確認できる運用にします。

職員全員に研修してから導入した方がよいですか?

最初から全職員へ広げる必要はありません。一つの業務について、誰が何を入力し、どのような出力を作り、誰が確認するのかを決めて少人数で試すと、具体的な問題を把握しやすくなります。

生成AIを導入すれば介護事務を自動化できますか?

生成AIを導入しただけで事務業務全体が自動化されるわけではありません。まず文章作成や情報整理を補助し、その後に必要性があれば介護ソフトや他システムとの連携を検討します。自動化範囲が広がるほど、情報管理や確認フローの検討も重要になります。

まとめ

介護事業所における生成AI活用は、介護そのものをAIへ任せることではなく、介護記録や申し送り、会議記録、事務文書などで繰り返している文章作成や情報整理を補助するところから始める方法が現実的です。

これから取り組むこと

  • 介護記録や事務業務の中から繰り返し発生する業務を一つ選ぶ
  • 利用者個人の情報を必要としない業務から試す
  • 生成AIへ入力してはいけない情報を具体的に決める
  • 業務ごとの共通プロンプトと確認チェックリストを作る
  • AIの出力を原記録や元資料と照合し、人が最終確認する流れを残す

生成AIを介護現場へ定着させるには、多くの機能を一度に導入するより、一つの業務で安全に使える形を作り、その結果を確認しながら対象を広げることが重要です。

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