AIエージェントに人の承認を入れる方法

AIエージェントに自律的なタスクを任せる際、「もし間違った内容を勝手に顧客へ送信してしまったらどうしよう」と不安に感じる担当者は少なくありません。安全なAI運用を実現するためには、AIの自動実行と人間の確認を両立させる「人の承認(Human-in-the-Loop)」のプロセスを組み込むことが不可欠です。

本記事では、AIエージェントの処理の途中に人が介入する仕組みの作り方や、具体的なツール構成の手順を解説します。

自社の業務自動化を進めたいものの、リスク管理の観点から何から始めるべきか迷っている経営者やAI推進担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

この記事のポイント
  • AIエージェントの誤作動を防ぐには、実行前の「人の承認(Human-in-the-Loop)」が重要
  • チャットツール(Slack/Teams等)やワークフローシステムとの連携で承認フローは構築可能
  • すべてのタスクを承認対象にすると業務遅延を招くため、重要度による仕分けが必要
  • 確実な運用には、自社の業務に合ったツール選定と専門家のサポートが効果的
Human-in-the-Loop(HITL)によるAIエージェントの承認フローの概念図
AIエージェントの実行プロセスに「人の承認」を組み込む概念

AIエージェントに「人の承認(Human-in-the-Loop)」が必要な理由

AIエージェントは高度な自律性を持つ反面、確率的な処理を行うため、常に100%正しい結果を出すとは限りません。ここで重要になるのが「Human-in-the-Loop(HITL:人間参加型)」という概念です。

ハルシネーションや誤操作によるリスクの回避

生成AIには、事実とは異なる情報をもっともらしく出力してしまう「ハルシネーション(幻覚)」という現象があります。もしAIエージェントが顧客へのメール返信や見積書の作成を完全に無人で実行した場合、誤った情報や不適切な金額を送信してしまう重大なリスクがあります。

最終的な送信や決裁の前に人間が内容を確認(承認)するステップを設けることで、これらの致命的なミスを未然に防ぐことができます。

フィードバックによるAIの精度向上

人が承認・修正を行うプロセスは、リスク回避だけでなく、AI自体の性能向上にも寄与します。人間が「この出力はNG」「このように修正すべき」と判断した履歴を蓄積することで、プロンプトの改善やシステムの調整に活かすことができます。

人の承認を組み込む3つのシステム構成案

では、具体的にどのようにしてAIエージェントの処理を一時停止し、人の承認を挟めばよいのでしょうか。ここでは代表的な3つのアプローチを紹介します。

1. チャットツール(Slack / Teams)を活用した承認フロー

最も導入しやすく、社内の定着率が高いのが、普段使用しているビジネスチャットツールを連携させる方法です。

AIエージェント(またはZapierやMakeなどの連携ツール)がタスクを作成した段階で処理を一時停止し、SlackやTeamsの特定チャンネルに通知を飛ばします。通知には「実行内容のプレビュー」と「承認」「却下」のボタンが設置されており、担当者が「承認」をクリックした時のみ、次の処理(メール送信など)が実行されます。

2. 既存のワークフローシステム・RPAとの連携

稟議書や高額な決済など、厳密な社内規定が存在する業務では、既存のワークフローシステム(kintoneなど)やRPAツールと組み合わせます。

AIが作成したデータの下書きをワークフローシステムに登録するまでをAIに任せ、そこから先の承認ルートは社内の既存ルールに従って人間が回す形式です。監査ログが残るため、ガバナンスを重視する企業に適しています。

3. AI開発プラットフォームの組み込み機能を利用

DifyやLangChain、Microsoft Copilot StudioといったAIエージェント開発基盤には、フローの中に「人間による確認ノード」を標準で設定できるものがあります。

この機能を使えば、AIの思考プロセスの途中で担当者に質問を投げかけたり、生成されたテキストの修正を求めたりすることがシステム上で完結します。

承認システムの比較表
方法 メリット デメリット おすすめの企業・用途
チャットツール連携 日常業務の中で素早く確認できる ログの管理や複雑な承認ルートの設定が苦手 素早い意思決定が必要な日常タスク
ワークフロー連携 監査対応が容易で、既存ルールを活かせる 設定や連携開発に手間がかかる 金額が大きい取引や重要文書の作成
開発基盤の組み込み AIの思考プロセスに直接介入できる プラットフォーム自体の導入と学習が必要 自社専用のAIエージェントを構築する企業
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業務に承認フローを導入する4つの手順

システム構成が決まったら、実際の業務に適用していきます。ただシステムを入れるだけではなく、事前の設計が成功の鍵を握ります。

  • 自動化と「承認必須」のタスクを仕分ける
    すべての業務に承認を入れると効率が落ちます。「社内向けの要約」は自動実行のみとし、「社外へのメール送信」や「システムへのデータ書き込み」は承認必須とするなど、リスクレベルに応じてタスクを分類します。
  • 承認者の選定とルールの明確化
    誰が、どのタイミングで、何を基準に承認するのかを定義します。「日本語がおかしくないか」「金額が間違っていないか」など、確認すべきチェックリストを用意しておくことが重要です。
  • プロトタイプ(試作品)の作成
    まずは一部の部署や特定のタスクに絞り、テスト用の環境でAIエージェントと承認フローを動かします。Zapierなどのノーコードツールを使えば、数日でプロトタイプを構築できます。
  • 運用テストとフローの改善
    実際にテスト運用を行い、「通知が多くて業務の邪魔になっていないか」「承認待ちでプロセスが滞っていないか」を確認し、フローを微調整します。
チーム内でAIの実行内容を確認し、安全に業務を進めている様子
承認フローの整備により、安全かつ効率的なAI活用が可能に

承認フロー導入における失敗例と対策

人の承認プロセスを組み込む際、運用面で陥りやすい失敗と、その回避策について解説します。

失敗1:承認作業の形骸化(見ずに承認してしまう)

AIからの通知が1日に何十件も届くと、担当者は内容を読まずに機械的に「承認」ボタンを押すようになります。これではリスク管理の意味がありません。

対策:
承認を求めるハードルを上げ、重要度の低いタスクはAIの自律実行に任せる(または事後確認のみとする)設計への見直しが必要です。また、承認画面で「特に確認すべき変更箇所」をAIにハイライト表示させる工夫も有効です。

失敗2:承認待ちによる業務の停滞

特定の管理職に承認権限が集中している場合、その人が不在の時にすべての自動化プロセスがストップしてしまいます。

対策:
権限の委譲を行うか、一定時間(例:24時間)経過しても承認されない場合は、別の担当者にエスカレーション(通知の引き上げ)される仕組みをシステム上に構築します。

自社に最適なAI運用環境を構築するには

AIエージェントに人の承認を入れる仕組みは、ZapierやMakeなどのノーコードツールを活用すれば、社内の担当者でも構築をスタートできます。しかし、全社的なセキュリティポリシーへの準拠や、複雑な条件分岐を含むフローの設計となると、専門的な知見が必要になります。

「ツールを契約したものの、リスクが怖くて実務に組み込めていない」「どのような設計が自社に最適か分からない」という場合は、AI導入の専門家によるサポートを受けることも有力な選択肢です。

よくある質問(FAQ)

承認フローを導入すると、業務効率化の効果は薄れませんか?

完全に自動化する場合に比べれば時間はかかりますが、「ゼロから人間が作成する時間」は大幅に削減されます。AIが90%まで仕上げたものを、人間が最後の10%だけ確認・修正するイメージとなるため、全体としては十分な効率化が見込めます。

どんなツールを使えばSlackなどに承認ボタンを作れますか?

ZapierやMakeといったiPaaS(連携ツール)の機能を使うのが一般的です。例えばZapierの「Slack Integration」機能を使えば、ボタン付きのメッセージを送信し、クリックされた結果に応じて次のアクション(メール送信など)を分岐させることができます。

中小企業でもAIエージェントの導入は可能ですか?

はい、可能です。現在は大規模なシステム開発を行わなくても、Difyなどのプラットフォームや各種SaaSを組み合わせることで、低コストで高機能なAIエージェント環境を構築できます。

法的・倫理的な判断もAIに任せて良いのでしょうか?

法務、税務、労務など、専門的な判断や法的責任を伴う領域については、AIの出力結果を最終的に専門家や責任者が必ず確認する仕組み(人の承認)を設ける必要があります。

まとめ

AIエージェントに「人の承認(Human-in-the-Loop)」を組み込むことは、業務の効率化とリスク回避を両立するための重要かつ現実的なステップです。

本記事の重要なポイントは以下の通りです。

  • AIの自動実行には、誤作動やハルシネーションを防ぐ最終確認が不可欠
  • SlackやTeams、ワークフローシステムと連携し、業務に合った承認フローを構築する
  • すべてを承認対象にせず、タスクの重要度に応じた仕分けを行う
  • 形骸化や業務遅延を防ぐため、運用テストを通じてフローを改善し続ける

自社の業務に合わせて、どこまでをAIに任せ、どこに人の目を入れるか、最適なバランスを見つけていきましょう。

株式会社ジェイテックサービスについて

当社では、中小・中堅企業様向けにAI活用を定着させる「AI顧問サービス」を提供しています。AIツールの選定、安全なガイドラインの策定、業務への組み込みまで、貴社の状況に合わせた伴走型の支援を行います。

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