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AIセーフティエンジニアとは?仕事内容・必要スキル・未経験からの始め方を解説

2025.08.21

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AIセーフティエンジニアとは?

何をする人か:AIシステムの安全性を守る技術者。バイアス(偏り)や誤判断、セキュリティリスク(データ漏洩やプロンプト注入=悪意ある指示の混入)を事前に発見し、対策を実装します。

なぜ必要か:AI事故やバイアスを防ぎ、社会の信頼を確保するため。AIが誤った判断をすると、人権侵害や経済損失につながる可能性があります。

まず何をするか:リスク評価・テスト・監視の仕組み作り。既存のAIシステムを棚卸しし、安全性の基準を策定して検証を実施します。

AIセーフティエンジニアの詳細解説

AIセーフティエンジニアは、AIシステムが安全かつ信頼できる形で社会に導入されるように設計・検証を行う専門職です。AIは高い利便性をもたらす一方で、バイアス、誤判断、説明不能性(なぜその判断をしたか分からない)、セキュリティリスクといった課題も抱えています。

そこでAIセーフティエンジニアは、リスクを見極め、事故や誤作動を未然に防ぎ、ユーザーや社会に安心を届ける役割を担います。研究・開発・法規制・倫理を横断し、技術と社会の橋渡しを行う存在です。

よくある誤解の整理

「AIエンジニアと何が違うの?」

AIエンジニアは「AIの性能を上げる」ことに焦点を当てますが、AIセーフティエンジニアは「AIが安全に動作するか」を検証します。性能が高くても、バイアスがあるAIは危険です。両方の視点が必要ですが、AIセーフティエンジニアは安全性に特化した専門家です。

「セキュリティエンジニアと同じ?」

セキュリティエンジニアは「不正アクセスやデータ漏洩を防ぐ」ことが主な仕事です。AIセーフティエンジニアは、それに加えて「AI特有のリスク(バイアス、誤判断、説明不能性、アドバーサリアル攻撃=AIを騙す攻撃)」も扱います。両者は協力しますが、専門領域が異なります。

AIセーフティエンジニアの具体的な仕事内容(4分類)

AIセーフティエンジニアの業務は、大きく4つに分類できます。それぞれの具体的な内容を見ていきましょう。

1. 予防設計:安全機能の組み込み

AIシステムを設計する段階から、安全性を考慮した機能を組み込みます。例えば、入力データの検証フィルター(プロンプト注入対策)、公平性を確保するためのデータ前処理、説明可能なAIモデルの選択などです。

【業務例】
・AIモデルの設計レビュー(安全性の観点から)
・入力検証ロジックの実装(悪意ある入力をブロック)
・公平性を確保するためのデータ前処理設計
・Explainable AI(説明可能なAI)の導入検討

2. テスト運用:異常ケースの検証

AIシステムが本番環境にデプロイ(公開)される前に、様々な異常ケースでテストを実施します。バイアステスト、誤判断のシナリオテスト、アドバーサリアル攻撃のテストなどを行い、問題があれば修正します。

【業務例】
・モデルの挙動検証(異常値や不正利用のテスト)
・公平性・バイアス評価(性別・人種などによる不当な偏りの検出)
・多様なシナリオでの誤判断テスト
・アドバーサリアル攻撃の防御テスト
・AIの説明可能性(Explainability)の検証

3. モニタリング:稼働後の継続監視

AIシステムが本番環境で動き始めた後も、継続的に監視します。性能の劣化、新しいタイプの攻撃、予期しない動作などを検知し、必要に応じて改善を実施します。

【業務例】
・継続的モニタリング(運用後の性能劣化やリスクを監視)
・異常検知アラートの設定と対応
・ユーザーフィードバックの分析
・定期的な安全性レポートの作成

4. 監査:規制対応・文書化

AIに関する法規制(EUのAI法、日本のAIガイドラインなど)に準拠しているかを確認し、必要な文書を作成します。また、社内のAIガバナンス体制を整備します。

【業務例】
・安全性に関するガイドラインや規制対応
・AIシステムの安全性評価レポート作成
・社内AIガバナンス体制の構築
・法務・コンプライアンス部門との連携

他職種との違い(比較表)

AIセーフティエンジニアと他の職種の違いを、表で整理しました。

職種 主な焦点 AIセーフティとの違い
AIエンジニア 性能向上(精度・速度) 安全性・倫理は副次的。AIセーフティは安全性に特化
セキュリティエンジニア 不正アクセス防御 AI特有のリスク(バイアス、説明不能性)は専門外
データサイエンティスト 分析精度 安全性検証は別担当。AIセーフティは検証が専門
AIセーフティエンジニア 安全性・信頼性 AIのリスクを総合的に評価し、対策を実装

AIリスクと対策の対応表(初心者向け)

AIシステムが抱える主なリスクと、それぞれに対する対策を表にまとめました。初心者の方でも理解しやすいよう、専門用語を補足しています。

リスク 説明 対策
バイアス 性別・人種などによる不当な偏り 公平性評価テスト、多様なデータでの学習
誤判断 予期しない状況で間違った判断 多様なシナリオテスト、異常値検知
プロンプト注入 悪意ある指示の混入 入力検証フィルター、サニタイゼーション
説明不能性 なぜその判断をしたか分からない Explainable AIの導入、判断根拠の可視化
データ漏洩 学習データや個人情報の流出 暗号化、アクセス制御、差分プライバシー
アドバーサリアル攻撃 AIを騙す攻撃(見た目は同じだがAIが誤認識) 敵対的訓練、入力検証の強化

AIの流れと安全ゲート図

AIシステムが作られてから運用されるまでの流れと、各段階で設ける安全ゲート(チェックポイント)を図で示します。

[データ収集] → 🛡️品質チェック → [学習] → 🛡️バイアス検証 → [デプロイ] → 🛡️継続監視

各ゲートの役割:

  • 品質チェック:データに偏りがないか、個人情報が含まれていないかを確認
  • バイアス検証:学習後のモデルが公平に動作するかをテスト
  • 継続監視:運用中も性能や安全性を監視し、問題があれば改善

AIセーフティエンジニアの1日の仕事例

実際のAIセーフティエンジニアが1日どのように働いているか、具体的なスケジュール例をご紹介します。

  • 9:00 チーム朝会:リスク共有、前日の異常検知の報告
  • 10:00 新モデルのバイアステスト実施:性別・年齢による偏りがないかを検証
  • 13:00 法務・開発チームとミーティング:AIガイドラインの準拠状況を確認
  • 15:00 監視ダッシュボード確認:運用中のAIシステムの異常検知、パフォーマンス確認
  • 17:00 安全性レポート作成:今週の検証結果をまとめ、経営層へ報告準備

30日導入ロードマップ

組織にAIセーフティ体制を導入する場合の、30日間のロードマップです。段階的に進めることで、無理なく体制を整えられます。

期間 活動内容
1-7日 現状のAIシステム棚卸し、リスク評価(どのAIがどこで使われているか、どんなリスクがあるかを洗い出す)
8-14日 安全基準策定、テスト環境構築(組織独自のAI安全基準を作成し、検証環境を準備)
15-21日 初回検証実施、課題抽出(既存AIシステムの安全性をテストし、改善点を特定)
22-30日 継続監視体制確立、社内研修実施(モニタリングツールの導入、社員への教育)

あなたの組織のAI安全度チェック

現在、組織でAIを活用している方、これから導入を検討している方は、以下のチェックリストで現状を確認してみてください。

  • AIシステムの使用状況を把握できているか
  • バイアステストを実施しているか
  • AIの判断根拠を説明できるか
  • 継続的なモニタリング体制があるか
  • AIに関する法規制に準拠しているか

チェック項目が少ない場合は、AIセーフティエンジニアの導入や外部コンサルティングの検討をおすすめします。まずはお気軽にご相談ください。

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AIセーフティエンジニアに必要なスキルと知識

技術スキル

  • 機械学習・深層学習の基礎知識:AIがどのように動作するかを理解
  • PythonなどによるAIモデルの実装・評価経験:実際にモデルを動かして検証できる力
  • データ分析・可視化スキル:バイアスや異常を発見するための分析力
  • セキュリティの基礎知識:データ漏洩や攻撃への対策

リスクマネジメント力

  • 倫理的・社会的リスクを技術に落とし込むスキル:抽象的なリスクを具体的な対策に変換
  • セキュリティや法規制に関する理解:AI関連の法律やガイドラインの知識
  • リスク評価フレームワークの活用:体系的にリスクを評価する方法

発信力・コミュニケーション力

  • AIのリスクや安全性をわかりやすく伝えるスキル:専門外の人にも説明できる力
  • 技術ブログや社内外向けのレポート作成:文書化能力
  • 研究者・開発者・法務・経営層など多様な立場との橋渡し:異なる専門性を持つ人との協働
  • 学会や勉強会での情報共有・議論:業界の知見を共有する力

役立つ資格

AIセーフティエンジニアとして活躍するために、以下の資格取得が推奨されます。

AI・機械学習関連資格

  • G検定(JDLA Deep Learning for GENERAL):ディープラーニングの基礎知識
  • E資格(JDLA Deep Learning for ENGINEER):ディープラーニングの実装能力
  • Google Cloud Professional Machine Learning Engineer:機械学習エンジニアの実務能力

セキュリティ関連資格

  • 情報処理安全確保支援士:セキュリティの専門知識
  • CISSP(Certified Information Systems Security Professional):国際的なセキュリティ資格
  • CEH(Certified Ethical Hacker):ハッキング技術の理解(防御のため)

その他推奨資格

  • PMP(Project Management Professional):プロジェクトマネジメント能力の証明
  • データサイエンティスト検定:データ分析の基礎知識

未経験からAIセーフティエンジニアになるには?

AIセーフティエンジニアは比較的新しい職種のため、未経験からでも十分に目指せます。以下のステップで学習を進めましょう。

ステップ1:AI・機械学習の基礎知識の習得

まずは、AIや機械学習がどのように動作するかを理解することが重要です。

  • 機械学習の基本アルゴリズム(回帰、分類、クラスタリングなど)
  • ディープラーニングの基礎(ニューラルネットワーク、CNN、RNNなど)
  • PythonやRなどのプログラミング言語

【学習リソース】
・Coursera、edXなどのオンライン学習プラットフォーム
・Kaggle(データサイエンスの競技プラットフォーム)
・書籍:「ゼロから作るDeep Learning」シリーズなど

ステップ2:AIセーフティの専門知識を学ぶ

AI特有のリスクや対策について学びます。

  • バイアスと公平性の評価方法
  • Explainable AI(説明可能なAI)の技術
  • アドバーサリアル攻撃と防御方法
  • AIに関する法規制やガイドライン

【学習リソース】
・AIセーフティに関する論文や研究資料
・NIST(米国標準技術研究所)のAIリスク管理フレームワーク
・EUのAI法や日本のAIガイドライン

ステップ3:実践スキルを磨く

実際にAIモデルを検証し、安全性を評価してみましょう。

  • オープンソースのAIモデルでバイアステストを実施
  • Explainable AIツール(SHAP、LIMEなど)の活用
  • モニタリングダッシュボードの構築
  • セキュリティテストの実施

ステップ4:資格取得で専門性を証明

前述の資格を取得することで、専門性をアピールできます。特に以下の順序で取得するのがおすすめです。

  1. G検定(JDLA Deep Learning for GENERAL)
  2. 情報処理安全確保支援士
  3. より専門的な資格へステップアップ

ステップ5:実務経験を積む

まずはAIエンジニアやデータサイエンティストとして就職し、その後AIセーフティ分野へシフトする方法が現実的です。または、AIセーフティに力を入れている企業やスタートアップ、コンサルティング会社への就職を目指すのも良いでしょう。

向いている人物像

  • 技術が好きで「安心して使えるAIを広めたい」と思える人:AIの可能性を信じつつ、リスクも理解できる方
  • 社会的影響や倫理問題にも関心がある人:技術だけでなく、社会への影響を考える方
  • 細かい検証やリスク分析にやりがいを感じる人:地道な作業を厭わない方
  • 技術と社会をつなぐ役割に挑戦したい人:多様な立場の人と協働できる方

キャリアパス

AIセーフティエンジニアは、幅広いキャリアパスが開かれています。

研究・専門系

  • AI倫理リサーチャー:安全性や倫理課題を研究ベースで追究
  • AIセキュリティエンジニア:アドバーサリアル攻撃防御やセキュリティ強化に特化

ビジネス・コンサルタント系

  • AIガバナンススペシャリスト:規制対応や国際標準化に関わる立場
  • AIセーフティコンサルタント:他社へのAIセーフティ導入支援

マネジメント系

  • プロダクトマネージャー(PM):安全性の知見を活かし、AI製品全体をリード
  • AIガバナンスマネージャー:組織全体のAIセーフティ体制を統括

よくある質問(FAQ)

Q1. 文系出身でもAIセーフティエンジニアになれますか?

A. はい、可能です。AI基礎知識を学ぶ必要はありますが、倫理や法規制への理解、コミュニケーション能力も重要な要素です。むしろ文系出身者ならではの視点や伝達力が活きる場面も多くあります。プログラミングスクールやオンライン学習で基礎を習得すれば、十分にキャリアチェンジできます。

Q2. プログラミング経験は必須ですか?

A. 必須ではありませんが、あると非常に有利です。AIモデルの検証やテストを実施する際に、Pythonなどのプログラミング言語を使うことが多いためです。ただし、AIガバナンスや規制対応に特化する場合は、プログラミングよりも法務やビジネススキルが重要になることもあります。

Q3. 資格は必要ですか?

A. 必須ではありませんが、専門性を証明するために取得を推奨します。特にG検定や情報処理安全確保支援士などの資格があると、転職やキャリアアップに有利です。ただし、実務経験や実績の方が重視される場合も多いです。

Q4. 将来性はありますか?

A. 非常に高いです。AIの普及に伴い、安全性への関心は世界的に高まっています。EUのAI法や日本のAIガイドラインなど、法規制も整備されつつあり、AIセーフティエンジニアの需要は今後ますます増加すると予測されています。特に、金融、医療、自動車など、安全性が重要な業界では必須の職種となっています。

Q5. 未経験から何を学ぶべきですか?

A. まずはAI・機械学習の基礎を学び、その後AIセーフティの専門知識を身につけることをおすすめします。具体的には、Pythonの基礎、機械学習のアルゴリズム、ディープラーニングの仕組みを理解した上で、バイアス評価、Explainable AI、セキュリティ対策などを学びましょう。オンライン学習プラットフォームや書籍、実践的なプロジェクトを通じて学習を進めるのが効果的です。

まとめ

AIセーフティエンジニアは、「AIの便利さ」と「社会の安心」を両立させるための架け橋です。高度な技術力に加え、リスクを発見し伝える力や、他部門と協力して解決へ導く力が求められます。

AIが社会のインフラになりつつある今、人とAIの共存を支える最前線のキャリアと言えるでしょう。未経験からでも、適切なステップを踏めば十分に目指せる職種です。技術で社会課題を解決したい、AIの安全性に貢献したいという想いがある方は、ぜひAIセーフティエンジニアという選択肢を検討してみてください。

この記事が、AIセーフティエンジニアへの第一歩となれば幸いです。ご質問やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。


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